映:HANA-BI
監督:北野武
制作国:日本
北野武の映画と聞けば暴力や鬱々とした雰囲気をイメージする人が多いだろう。
しかし、この作品をただのバイオレンス映画だと侮ってはいけない。
第54回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞した本作は、7作目にして北野監督の最高傑作とも言えるだろう。
以下はDVDのパッケージ裏のあらすじである。
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ビートたけし演じる主人公、西刑事。
突然の子供の死と不治の病に冒されていく妻に、走り続けてきた自分の意味がわからなくなりはじめる。
そんな時、張込み中の同僚、堀部が撃たれたという知らせが届く。
さらに犯人を追詰めた銃撃戦で部下の田中が命を落とす。
次々と大切なものを奪われ、心をさいなまれていく西。
一命はとりとめたものの、車椅子の生活となり家族にも去られた堀部。そんな彼の為、殉職した田中の家族の為、そして妻との残された時間の為に西はある重大な決心をする…。
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不器用な男の静かな叫び。
少ない台詞から生まれた沈黙に、そんなものが聞こえてくる。
時系列は複雑だし説明も少ない。
しかしそれは、『分からないけど分かる』という曖昧で重要な感覚を観客に与える。
そしてその感覚は、この映画が芸術作品だということを暗に示しているように思う。
『キタノ・ブルー』と呼ばれる静寂の青いヴェールが映画全体に広がる。
それは妻と過ごす寧日の優しさを表しているのか、或いは正視に耐えないメランコリーの象徴なのか。
私はそのどちらも強く感じた。
大切な人の命を失い、職を失い、借金をし、罪を犯した主人公は、最期に妻と旅行をする。
それは短くも劇中で最も幸せな時間だが、皮肉なことにこの旅行自体が死を見据えたものでもあった。
そんな旅行の最後に訪れた海。
決意のエンディングが迫っている。
「ありがとう、ごめんね」
妻の発したこの二言に、言葉足らずな彼女がいつも言いたかったことが全て詰まっているのではないか。
そして滲んだ血の赤が青の世界にひびを入れるように、2発の銃声が響く。
劇中さり気なく登場する北野武の描いたエキセントリックな絵や久石譲のメロウな音楽。
『HANA-BI』には、芸術が無限に散りばめられていた。
予告動画↓
https://m.youtube.com/watch?v=E11cYQ0WI9A