Purple Fabric’s Diary

映画や本、その他諸々について自分の意見を書くブログ。日本人になりたい日本人。Filmarks ID:pierrotshio

「檸檬」アナザーストーリー

前回記事にした、梶井基次郎の『檸檬』の感想は課題で書いたものである。実はあれは改訂版で、最初は少し違うものを書いていた。それをそのまま提出しようと考えていたが、見直してすぐに自信がなくなった。

私はよく的外れな文章を書いてしまうのである。出題の意図も何も考えず思った通りに書き、そして後で直すことになるのがお決まりであった。

しかしまあ頑張って書いたので、ここに載せて何とか我が文章を供養したい。

 

どんな感想文を書いたかというと、それは感想文ではなくアナザーストーリーだと父親に言われるような、論理そっちのけな文章である。

 

一応、閲覧注意‼️

 

 

 

 

 

 

梶井基次郎檸檬」アナザーストーリー

〜求められていない物語〜

                                                 by Purple Fabric

 

煙のようなものが見えた。喫煙所の前を通るように顔をしかめる準備をしていたら、然し柑橘系のすっきりとした香りが漂ってきた。檸檬だ。私は唐揚げに付いてくるレモンをそのまま口に放り込むほどレモンが好きだった。

檸檬の靄に包まれて、私はただただこの物語の主人公と一体化した。物語は私の記憶となる。

 

得体の知れない不安が常に心を支配して、華やかなものは豪華絢爛、目が眩んでしまう。憂鬱さに俯きながら歩くと、ありきたりな果物店の、ある水菓子が目にとまる。檸檬だ。「私」を幸福にするそれを一つ買って握りしめると、もう一人の私が姿を現す。

黄金色の冷たい檸檬は姿を変え、母の手となる。幼い私の熱を帯びた額を溶かすそれは、妙に安心感を与えた。その手の冷たい温もりがある限り私は得体の知れない不安を取り除くことができる気がした。再び眠りにつくとそれはまた紡錘形の水菓子に戻った。

 

―――つまりはこの重さなんだな―――

哲学じみた洒落を言えるほどには回復したのだろう。そう思っていた。

どこへでも行ける気がして、羽の生えた靴で歩を進めてたどり着いたのは、かつてはお気に入りであった重苦しい場所。低気圧よりも「私」を悩ますこの重さは、あの美しい檸檬でさえ取り替えることはできなかった。それどころか「私」の意思とは関係なく、さらに重たい画本を次々と取り出して、ついには頂上を檸檬で飾った城が出来てしまった。

「私」はそそくさと店を出る。美しい檸檬爆弾を置いてきた背徳感に胸を踊らせながら。この偽物の背徳感もまた私を呼び起こす。私はスパイ映画の主人公になりきって街を歩くことがあるのだ。誰に迷惑をかけるわけでもない。むしろ迷惑をかける勇気などないのだが。

偽物の罪悪感に胸をときめかせ、「一般人になりきるスパイ」になりきって一人楽しむのだ。決して悲しいことではない。ただもしかしたら、これはあの檸檬の仕業かもしれない。

とどのつまり「私」は、梶井基次郎は、私の心にも檸檬爆弾を一つ置いていったのだ。