映:アロイス・ネーベル
監督:トマシュ・ルナク
制作国:チェコ/ドイツ
国立映画アーカイブで行われた『EUフィルムデイズ』で再上映した過去の作品。
歴史的背景や技法などの予備知識ほぼ無しで観たため理解できていない部分があるが、非常に見応えのある作品であった。
そして鑑賞後の監督インタビューも興味深いものだった。
内容としては、あまりオープンに話されない歴史的出来事がテーマ。
第二次世界大戦が終わり、チェコのある地域では移住していたドイツ人が追放されていく。
当時チェコ人とドイツ人の国際結婚もあり、家族が離ればなれになることもあった。
それは主人公のアロイス・ネーベルが幼い頃の出来事である。
鉄道員である彼を取り囲む古い記憶は深い霧によっていつも呼び起こされる。
その現象に苦しむ彼は精神病院に通う。
原作であるコミックスは3部作まであり、その1部目がここまでで終わる。3部は独立した話で、それらを繋げ、ひとつの作品にすることに苦労したという。
その後も、精神病院で別の人物が酷い治療を受けているのを見たり、そこから出た後には親しくなる女性が出てきたり、1人の人物を中心に豊かなストーリーが展開される。
主人公はドイツ人と接触があったチェコ人なのだが、彼の名前「アロイス・ネーベル」というのはドイツ名だ。
「ネーベル(Nebel)」はドイツ語で「霧」という意味。
反対から読むと「レーベン(Leben)」、「人生」という意味になる。
霧が多いその地域で人生を送る男だからというのが由来だと監督は話す。
音の響きもその意味も美しいと感じた。
また、個人的にロトスコープという手法の作品を観るのは初めてで、最初はリアル過ぎる音声と細かい人間の動きに驚いた。
最初に俳優を使って実写映画を作りそれを元にアニメーションを作るというロトスコープの複雑な工程の成果として、リアリティの追求には成功していた。
しかし正直アニメーションにする必要性は分からなかった。
インタビューでは原作であるコミックスの絵に近づけたかった、大人に見てもらいたかったと監督が話し、それなりに理由はあるようだったが、それは後付けで本当は技術的な面で挑戦したかっただけなのでは、と感じた。
何せチェコでロトスコープが用いられたのは今作が初めてなのだから。
でも音の臨場感は素晴らしかったし、霧に包まれて様々な記憶が男を支配するときの光の描写は釘づけになる。
これが監督の初めての長編作品だなんて信じられない。
質問する勇気がなくて残った疑問は、水道の栓を閉めるショットの意図。何度も描かれて印象的だったが…謎に包まれたまま終わってしまった。
なかなか観る機会は訪れないであろう作品。思い切って飛び込んでよかったと思う。
予告動画↓